犬が食べてはいけない代表的な野菜と言えば玉ねぎ。なぜ、玉ねぎが犬にとって危険性の高い野菜なのかご存知ですか?
犬にとって玉ねぎが良くないと分かっていても、「犬が玉ねぎを食べても問題ない」「少量なら大丈夫」といった情報も紛れ込んでいるため、何が正しくて間違っているのか判断がつかないといった質問をよく受けます。
そこで今回は、犬が玉ねぎを食べてはいけないそもそもの理由は何なのか?本当に食べたら危険なのか?など、犬と玉ねぎの関係性について解説していきたいと思います。

著書『愛犬の健康寿命がのびる本』では、飼い主が正しい知識を持ち、ペットを守ることの大切さを日々伝えており、台湾版も出版されている。
目次
なぜダメなの?玉ねぎが犬にとって危険な理由!

玉ねぎが犬にとって中毒性のある食材だということは分かっていても、なぜ危険なのか?までをしっかり把握している飼い主さんは少ないと思います。
そこでまずはじめに、玉ねぎが犬にもたらす作用について解説していきましょう。
長谷川拓哉 獣医師
玉ねぎに含まれる「有機チオ硫酸化合物」が原因!
インターネットで「玉ねぎ 犬」と検索すると、玉ねぎに含まれる「アリルプロピルジスルフィド」が犬にとって中毒物質であると多くのサイトで書かれています。
確かに、ちょっと前までは「アリルプロピルジスルフィド」が原因で中毒症状を起こすと報告されていました。しかし最近になって、本当の中毒物質は「有機チオ硫酸化合物」参考文献[1]であることが判明したのです。
玉ねぎに含まれる成分の一つ。人間に対しては抗がん作用、血栓症予防、免疫力アップなどの効果が期待できますが、犬にとっては有毒となる物質です。玉ねぎには少なくとも3種類の有機チオ硫酸化合物が含まれており、加熱してもなくなることありません。
犬にとって有機チオ硫酸化合物がなぜ有毒なのか?というと、この物質を消化する酵素を持っていないからです。参考文献[1] これは犬だけでなく猫にも同じことが言えます。
しかも、この物質自体が酸化作用を持っているため、体内に入ると赤血球のヘモグロビン(赤い色素)を酸化させ、赤血球内に「ハインツ小体」という病変を作ってしまうのです。
ハインツ小体をもった赤血球は血管の中で壊れやすくなり、赤血球自体が弱くなったり、赤血球の溶解を引き起こします。そして赤血球の破壊が繰り返されると、赤血球の数が減るため最終的に「溶血性貧血」などを引き起こします。
なぜ犬が玉ねぎを食べると危険なのか?つまりそれは、赤血球が破壊されて重症の貧血になる危険性があるからということになります。ひどい時には命を落としてしまうこともあります。
また、破裂した赤血球のヘモグロビンがそのまま腎臓へ流れることもあり、やがて尿にヘモグロビンが混ざって、ヘモグロビン尿症を引き起こしてしまうこともあります。
何をしても消えない!それが「有機チオ硫酸化合物」の特徴!
実は、有機チオ硫酸化合物は加熱しても消えることはありません。もちろん加工してもです。
そのため、玉ねぎが入った料理すべてには必ず有機チオ硫酸化合物が含まれていると考えることが大切です。
玉ねぎの入った味噌汁、スープ、ハンバーグ、煮物、コロッケ、シチュー、カレー、野菜炒め、牛丼、かき揚げ、お菓子など。
これらには玉ねぎのエキスや煮汁が含まれているので、体質や健康状態によっては少量を口にしただけで中毒を起こしてしまう犬もいます。十分に注意しましょう。
玉ねぎ以外に「有機チオ硫酸化合物」が含まれている野菜はあるの?
有機チオ硫酸化合物は、玉ねぎ以外のヒガンバナ科ネギ属の植物にも含まれています。
それぞれ毒性成分の含有量が違うため、危険度は異なります。とは言え、有機チオ硫酸化合物が含まれていることに変わりはありませんので、犬には食べさせないようにしましょう。
長谷川拓哉 獣医師
犬が玉ねぎで中毒症状が出てしまう量や致死量は?

犬における玉ねぎの中毒量は、一般的に体重1kgあたり15~30gと言われています(ペット栄養学会誌参考)。
例えば、体重14kgの犬であれば約210g(約1個分)の玉ねぎを食べたら危険という計算になります。
致死量に関しては、明確な量が現在わかっていません。中毒量を示しましたが、中毒発症量には個体差があることは覚えておいてください。
実際どのくらいの玉ねぎを食べたらダメなのか?というのは今でも謎のベールに包まれており、現時点では「〇g食べたらダメ」という根拠のある情報が存在しません。
犬の体質や健康状態によっては微量でも危険な場合もあるため、玉ねぎについてはあまり情報を過信せず、与えないようにする姿勢を保つことが重要です。
長谷川拓哉 獣医師
犬が玉ねぎ中毒を起こした時の症状は?

犬が玉ねぎを食べてしまった時の症状としては、以下のようなものが挙げられます。
- 貧血
- 黄疸
- 元気がない
- 食欲不振
- 下痢
- 嘔吐
- 痙攣
- 震え
- 頻脈
- 血色素尿
- 血便
- 吐血
- 呼吸困難など
これらは実際に報告されている症状なのですが、すべての犬にこのような中毒症状が現れるわけでもありません。
玉ねぎを食べてケロッとしている子もいれば、ペロッと舐めただけで深刻な中毒症状を起こす子もいます。
症状の出方は個体差によって本当にバラバラなので、あくまでも一例として参考にしていただければと思います。
玉ねぎを食べて中毒症状があらわれるまでの時間は?
玉ねぎを食べたからといって、すぐに中毒症状が現れるわけではありません。
これも個体差があるのではっきりと言い切ることはできませんが、症状が出るまで半日~数日ほどかかることが多いようです。もちろん摂取量によっても異なります。
ですが、もしも愛犬が玉ねぎを食べてしまった場合、症状が出るまで様子を見るのではなく、早急に対応が必要です。玉ねぎはなるべく早く体外へ出すことが推奨されます。
ですから、玉ねぎを食べてしまったことがわかったら、すぐに動物病院へ連絡しましょう。いつ、どれくらいの量を食べたのか伝えたうえで指示を仰ぐようにしましょう。
玉ねぎで中毒症状が出た時はどんな治療をするの?
玉ねぎで中毒症状が見られた場合、動物病院では血液検査をして数値を確認することが一般的です。検査をすれば、赤血球が破壊されているかどうかが分かります。
そして、玉ねぎを摂取したのが1時間以内であれば催吐を試み、2~4時間以内であれば胃の洗浄やビタミンCの点滴などが行われます。
犬が玉ねぎを食べてしまった時の対処法や応急処置は?

基本的に自宅でできる対処法はありません。速やかに動物病院に連絡してから連れて行き、吐かせることが最善です。
よく「塩水を飲ませて吐かせて下さい」といった情報を見かけますが、現在その方法は推奨されていません。なぜなら、大量の塩分摂取による塩中毒の危険性が伴うからです。
また「オキシドールを使って吐かせる方法」が推奨されていることもありますが、こちらも粘膜を荒らす可能性が高いので、自宅で使用することはやめておきましょう。
柴犬と秋田犬は他の犬よりも玉ねぎ中毒になりやすいの?

ネット上で「柴犬と秋田犬は他の犬よりも玉ねぎ中毒になりやすい」という情報を見かけたことがあるかもしれません。
こちらに関して現在分かっているのは、柴犬と秋田犬などの犬種には「家系により玉ねぎに高感受性を示す場合がある」ということです。参考文献[2]
これは、遺伝的に赤血球内の還元型グルタチオン濃度が高いためと考えられています。
なので、柴犬と秋田犬をひとくくりに考えるのではなく、「その中でも遺伝的に反応しやすいケースがある」という認識の方が正しいです。
長谷川拓哉 獣医師
玉ねぎと犬の関係性については、本当にいろんな意見が出ています。
「犬に玉ねぎが危険は嘘」とか「デマ」といった情報を流す人も多いですが、これらには誰もが納得する根拠がないため、過信するのは良くないと私は思っています。
玉ねぎで中毒を起こしてしまう原因が少しずつ分かってきている今、わざわざ玉ねぎを意図的に与える必要はありません。与えられた犬が実験の対象にされているようでかわいそうです。
飼い主さんは犬に関する正しい知識を自分で身につけ、そして愛犬の健康と命を守りましょう。なんでもそうですが、情報はあくまでも参考程度に留めておくことをおすすめします。
























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