犬も人間と同様、何らかの要因が引き金となって白内障を引き起こすことがあります。
犬の白内障は決して珍しいことではなく、犬を飼い始めたすべての人が知っておくべき眼疾患の1つとも言えるでしょう。
ここでは、犬の白内障の原因や症状、気になる治療法や予防法などについて解説していきたいと思います。
目次
犬の白内障はどんな病気?
本来、水晶体は透明でなければなりません。ところが白内障を発症すると、その水晶体がじわりじわり白く濁り始めていきます。
すると視界がぼやけ、やがて輪郭や明暗が分かりにくくなり、進行すると失明することもあります。緑内障などの眼疾患を併発しなければ、とくに痛みを感じることはないようです。
また、同じように水晶体が白く濁ってしまう症状として核硬化症(かくこうかしょう)があります。水晶体が白く濁るという点では核硬化症と白内障はよく似ていますが、白内障と違って核硬化症は失明することもなく、その他の眼疾患に繋がることもありません。
核硬化症は年をとってくると、どんな子にも見られる症状です。水晶体が白くなった際に白内障か核硬化症なのか判断が難しい場合は、動物病院で診察をしてもらうようにしましょう。
なぜ水晶体が濁ってしまうのか?
そもそもなぜ水晶体が濁ってしまうのか?というと、何らかの原因で水晶体の中にある水晶体液がうまく入れ替われなくなってしまうからです。
水晶体液の新陳代謝がうまくいかなくなると、やがて水晶体の中にタンパク質の結合ができます。すると透明な水晶体が白く濁り始め、白内障がどんどん進行していきます。
ちなみに「何らかの原因」にはいろんなものがあり、代表的なもので言えば加齢や遺伝などが挙げられます。
それ以外に、糖尿病などの病気に関連して発症することもあるので注意が必要です。
犬の白内障は4段階のステージがある
白内障はおおよそ4段階のステージに分けられ、それぞれのステージごとに症状や目の濁り具合が変わります。
ステージ | 症状・特徴 |
---|---|
1.初発白内障 | 白濁の程度がおおまかに全体の15%未満である状態で、自覚症状もほぼ無い。正確な診断のためには、散瞳させる処置とスリットランプなどの眼科検査機器が必要。 |
2.未熟白内障 | 白濁が水晶体の中に見え始めてくる状態。視界がぼやける、かすむなどの視覚障害も現れ始める。 |
3.成熟白内障 | 白濁が水晶体全体に及んでいる状態(瞳孔の部分が真っ白な状態)。この時点で視覚を喪失していることが多い。 |
4.過熟白内障 | 白内障の最終段階。ほとんどの子で視覚はなく、変性した水晶体が眼内に溶け出して縮んでくることもある。 |
愛犬がたとえ白内障になっても、初期の段階では私たち飼い主が見ても分からない場合がほとんどです。そのため、早期発見できる飼い主さんは少ないと言われています。
愛犬の様子がおかしいと感じて動物病院を訪れた時は、すでに未熟白内障、あるいは成熟白内障になりかけている段階が多いようです。
そしてこの進行具合は、老犬よりも若い犬の方が圧倒的に早い特徴があります。
犬の白内障の種類とそれぞれの原因
白内障は、大きく分けて「先天性白内障」と「後天性白内障」の2つのグループに分けられます。そして2つのグループからさらに細かく分けると、主に6種類の白内障に分けられます。
先天性白内障 |
|
後天性白内障 |
|
先天性白内障
先天性白内障
遺伝により、生後2ヶ月くらいまでに起こる白内障です。母犬のお腹の中にいる時から白内障が始まっています。
若年性白内障
先天性白内障が生後2ヶ月以下で起こるものに対して、若年性白内障は生後6ヶ月~1歳くらいまでの間に発症するものです。
遺伝のみならず、飼育環境や餌も関係しているのではないかと言われていますが、現時点では詳しい原因やメカニズムが解明されていません。
トイプードル、ミニチュア・ダックスフンド、ビーグル、シーズー、ミニチュア・シュナウザー、ウェルシュ・コーギー、ウェスト・ハイランド・ホワイトテリア、秋田犬、柴犬、コッカ-・スパニエル、マルチーズ、シベリアンハスキー、ゴールデン・レトリバーなど約60犬種で確認されています。
後天性白内障
加齢性白内障
加齢性白内障は、犬の白内障でもっとも多い白内障です。個体差にもよりますが、おおよそ8~10歳頃から発症し始めるケースが多く、早い犬では6歳頃から発症することもあります。
外傷性白内障
水晶体に傷がついてしまうことで起こる白内障です。他の白内障よりも比較的治りやすいと言われています。外傷から時間が経ってから白くなることが多く、原因の特定が難しいこともあります。
代謝性白内障
代謝性白内障は、糖尿病、低カルシウム血症、ホルモン疾患などが原因で起こるものです。中でももっとも多いのが、糖尿病によるものだと言われています。
糖尿病性の白内障は進行が早いため、発見した時にはすでに成熟白内障まで進行しているケースも珍しくありません。
眼病による白内障
眼病による白内障は、ぶどう膜炎、緑内障、網膜変性、水晶体脱臼などの病気によって引き起こされるものです。また、遺伝性の進行性網膜萎縮や網膜剥離に関連したものもあります。
とくにぶどう膜炎から起こる白内障は治療がかなり難しいです。たとえ手術を行っても良い結果に終わるとは限らないと言われています。
中毒による白内障
中毒による白内障は、何か毒性のあるものを食べたり、あるいは薬剤などによる中毒が原因で起こるものです。
最近では、工業用の防腐剤として使用されているジニトロフェノールや、防虫剤に使用されているナフタリンの中毒で白内障になることが知られています。
犬が白内障になると現れる症状は?
犬が白内障になるとどのような症状が現れるのか?報告されている一般的な症状をまとめてみました。
- 物によくぶつかる、あるいはつまずく。
- ちょっとした物音でもビックリする。
- 暗いところを歩きたがらない。
- 飼い主とのアイコンタクトがとれなくなる。
- 目を痛がる(緑内障などを併発した時)。
- 目の充血(ぶどう膜炎を併発した時)。
初期の段階では、ほとんどと言っていいほど白内障の症状は見られません。もし見られるとしたら、薄暗いところを歩きたがらない様子を見せることくらいでしょう。
飼い主さんも「あれ?」と気付くようになるのは、だいたい白内障が少し進行した時です。柱や壁にぶつかることが増え始め、飼い主さんとのアイコンタクトにズレが生じ始めます。
犬は聴覚と嗅覚が発達しているので、猫のように目で見て行動することが割合的に少ない動物です。初期の段階では普通に生活していることが多く、一緒に住んでいる飼い主さんでさえも気付きにくいようです。
そして、白内障が進行して最終段階に入ると、もうほとんど見えない状態になります。見えない不安から攻撃的になったり、夜鳴きをすることもあります。
犬の白内障の検査はどのように行われるの?
疑わしいと思ったら、まずは信頼のできる動物病院へ行って獣医師に相談しましょう。少しでも迷って発見が遅れると、白内障が進行して悪化します。
一般的に行われている検査の方法は以下の通りです。
- 明るい部屋と暗い部屋での見え方の確認。
- 暗い部屋でフラッシュを使って反応を見る方法。
- 瞳の中に光を当てて水晶体の濁り具合を確認。
- 障害物のあるところを歩かせる。
検査をする際に散瞳剤の点眼薬(瞳を広げるための目薬)を使用するので、瞳孔が開くまでの時間も含めると検査時間はおよそ30分くらいです。
詳しい検査方法や費用については病院によって異なります。どんな検査をするのかは、病院へ直接問い合わせて確認しましょう。
犬の白内障の治療や治し方にはどのようなものがあるの?
白内障の治療は、大きく分けて「内科的治療」と「外科的治療」の2つの方法があります。
- 内科的治療・・・点眼や内服薬による薬物療法
- 外科的治療・・・専門医で行う手術療法
内科的治療
この治療法は、主に白内障の進行を遅らせるための目的で行います。白内障を治すものではありません。
初期段階の白内障には効果的のようですが、すでに進行してしまった白内障にはほとんど効果がないというデメリットをもちます。
よく「市販の目薬で白内障が治る」といった根拠のない記事を見かけますが、まったくのデタラメなので信用しないようにしましょう。
白内障は目薬などで治すことはできませんし、真っ白になってしまった水晶体は手術をしない限り戻りません(手術でも戻らない場合もある)。予防効果に関しても賛否両論があるので、あくまでも「進行の予防を期待して使用する」といった心持ちでいるのが良いでしょう。
外科的治療
白内障を根本的に治すためには、外科手術しか方法はありません。しかし、必ずしも治るというわけではないので、その辺りを踏まえながら話を進めていく必要があります。
一般的には、未熟白内障と成熟白内障の場合に外科手術が適応となるようです。それ以上進行している場合は眼底に問題があることも多いので、手術をしても視力が戻らないと判断されて適応されないこともあります。
手術を行う際には、目のエコー検査や網膜が光を感じることが出来るかを調べる検査(網膜電図検査)を行い、反応がない場合には手術をしても視力が戻る可能性は低いと判断されます。
白内障の進行に伴い反応が悪くなることが多いため、手術を希望する場合はなるべく早く動物病院を受診しましょう。
手術の内容
よく行われる手術療法は、水晶体を超音波で砕きながら吸引し、きれいに取り除いたあとに人工レンズを挿入する方法です。
ただし、犬の水晶体は厚くて丈夫なのでそれだけ手術の時間もかかります。全身麻酔による体への負担はもちろんのこと、眼球へ大きな負担をかけるリスクもあります。
白内障の手術には高度な専門技術と医療機器が必要になってくるため、眼科の専門医を紹介してもらうか、あるいはインターネットで病院を検索して直接問い合わせてみましょう。
外科手術は術後のケアが重要!
白内障の手術は、術後のケアがもっとも重要です。なぜなら、人工レンズが安定するまで約1ヶ月はかかるからです。
安定するまでは毎日愛犬に目薬をし、そして定期的に検査へ連れて行く必要があります。
ここで気を抜いてしまうと、手術しない状態よりも症状が酷くなることもあるので注意しましょう。術後は飼い主さんの理解と根気が必要です。
特に自宅での点眼ができないなど、苦手な子は手術自体を勧められないこともあります。
犬の白内障手術にかかる費用はどれくらい?
白内障手術の費用は病院によって異なり、私が調査しただけでも1眼あたり20~40万円と幅広い金額でした。
なぜこんなに治療費が高いのかというと、人工レンズ自体が高額だからです。あとは、高度な専門技術と医療機器が揃っている病院で手術が行われることも理由の1つでしょう。
絶対おすすめ!とは言えませんが、白内障になる恐れのある犬種を飼った場合には「ペット保険」に加入しておくのも1つの手だと思います。
犬の白内障を予防する方法ってあるの?
残念ながら、白内障を予防することはできません。なぜなら、白内障の発症メカニズムや原因において不明な点が多すぎるからです。
ただ分かっていることは、酸化ストレスや紫外線も影響しているのでは?ということです。
酸化ストレスとは、いわゆる「体がサビる」ことです。過剰な活性酸素が健康な細胞を酸化させていくので、病気や老化を引き起こしやすい体にさせてしまいます。
先天性のように遺伝の場合は防ぎようないですが、そうでない場合は日頃から酸化ストレスと紫外線対策をすることで予防につながることもあります。
ちなみに酸化ストレスには、抗酸化作用のある栄養素を食事やサプリメントから補うのが望ましいとされています。
決して白内障が改善されるわけではありませんが、病気をしにくい体づくりをするためにも心がけておくといいでしょう。
じゃがいも、さつまいも、かぼちゃ、レバー、卵黄、カツオ節、トマト、ビルベリー、鮭、鯛、りんご、ココナッツオイルなど。
年に1回の健康診断は欠かさずに!
白内障を少しでも早期に発見できるように、年1回の健康診断は必ず受けるようにしておきましょう。7歳を過ぎたら年2回受けるのが望ましいです。
市販の目薬は白内障の予防にいいの?
近年、白内障の予防が期待できる犬用の目薬が手軽に購入できるようになりましたね。代表的なもので言えば「シーナック」や「ライトスクリーン」などがあります。
中でも「シーナック」は口コミでも評価が高く、使っている飼い主さんも多いようです。
ただし市販の目薬で白内障が治ることはまずありませんので、その点だけしっかりと理解しておきましょう。
進行を予防するといった効果に関しても賛否両論あります。あくまでも、進行の予防を期待するといった形で取り入れてみるのが良いのかなと思いました。
とは言え、医師の診察なしに市販の目薬を使い続けるのは良くありません。必ず病院で検査を受けた上で使用するようにして下さい。
白内障を抱えた愛犬に飼い主さんができること
もしも愛犬が白内障になってしまったら、日常生活で不便しないよう身の回りに気を配るようにしましょう。
すぐにできる対策としては、
- なるべく明るいうちに散歩に行く(夜道の散歩で怪我をする可能性があるため)。
- 散歩の時は障害物にぶつからないよう十分に注意する。
- 歩き慣れている部屋の家具は位置を変えない。
- 角や尖っている部分をクッションでガードする。
- 段差をつくらない。
- 部屋の臭いを極端に変えない。
- 大きい音を出さない。
- 寂しがらないようにたくさん話しかける。
- 完全に失明している子に対しては、驚かせないよう声をかけてから触るようにする。
などがあります。犬は目が見えなくなると嗅覚や聴覚を頼りにするので、いつもの匂いが変わってしまうだけでものすごく不安がります。十分に注意しましょう。
あとは、声掛けやスキンシップで飼い主さんが近くにいることを感じとってもらって下さい。それだけで愛犬は安心してくれるはずです。
犬の白内障と「核硬化症」の違いは?
白内障とよく間違われるものに「核硬化症」があります。この病気もやはり水晶体が白く見えるようになるため、白内障と勘違いされることが多いようです。
核硬化症は視力を失う病気ではありませんが、時に白内障を併発することもあるので注意が必要です。
とは言え、この病気に関してはとくに治療の必要はありません。もしも核硬化症と診断されたら、今後どのように対処したらよいのか獣医師に確認しましょう。
愛犬の白内障に少しでも早く気付けるよう、飼い主さんは日頃から愛犬の目をしっかりと観察しておきたいものです。
私の知人が飼っていた犬(ヨークシャーテリア)、友人が飼っていた犬(ミニチュア・ダックスフンド)も白内障を患い、発見が遅かったために2匹とも失明しました。
どちらも痛みがない分、元気なことは元気なんです。ただ、排泄をあちらこちらでするようになったり、怖がりになったりなど、違う面で支障が出るようになりました。
そして知人も友人も口を揃えていっていたこと、それは「もっと早く気付いてあげればよかった」でした。でも後悔してもこの子のためにならないということで、2人とも愛犬のお世話を本当に毎日頑張っていました。
現在、犬の白内障は4匹に1匹の割合でなると言われています。つまり決して珍しい病気ではないので、健康診断はもちろんのこと、毎日の健康管理を忘れずに行いましょう。